月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
舞い上がる様に、上空へと静かに吹き上がっていく。





…頃合いだ。






僕は空を仰いだ。


ちょうど、雲が月を隠す所。



良いタイミングだ、さすがだな。







傍らで揺れる椿の枝に手を伸ばした。



手の平に振り落とされた椿の覚悟…。



それを両手に包み込み、僕は彼を呼ぶ。








「さぁ、貴志君……君の声を届けるよ…」







月が、雲に隠れた。


静寂が庭を包み込んでいく。




その中で、椿が葉を揺らした。


その葉から雫が落ちる様にこぼれる光…。




光はゆったりと漂いながら、一人の少年の姿を浮き上がらせた。








君の愛する家族に、伝えよう。


君の言葉で、姿で…。



貴志君。

君の心を。









「貴……」

「貴志…貴志なの…?」







両親の問い掛けに、貴志君は笑い頷いた。





―うん、僕だよ―


「貴志…」


―おじさんと椿のおかげで、やっと会えた…―



「貴志!」




先輩が貴志君に走り寄り、その身体を抱きしめ様と手を伸ばした。



だが、両腕は虚しく空を斬る。
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