月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
―ごめんね、お父さん。僕に触る事は出来ないんだ…―


「貴志…!」




揺れる光、貴志君の魂を乗せた光。


その光の下で、泣きながら膝をつく両親。




触れたい、けれど触れられない。

残酷だが、これも現実なのだ。





―あまり時間が無いんだ…僕は逝かなくちゃいけないから―


「貴志……」


―僕…お父さんとお母さんに、お願いがあるんだ―


「お願い…」

「何?何があるの、貴志…」


縋る様に光に手を伸ばす両親に、貴志くんはやんわりと…切なそうに笑みを向けた。




―もう、泣かないで欲しいんだ…―








そう…貴志君は、ずっとそれだけを祈り、願い続けていたのだ。


あと少し、もう少し過ぎれば、両親の悲しみが癒えるのを見届けられるかもしれない。

そう願い、留まる内に、貴志君の身体が悲しみの涙を吸い込んでいったのだ。


両親が泣く度に、身体が悲しみを吸い取り、重くなっていった。



…天に昇れなくなる程に。




貴志君が抱える悲しみの重さを、椿は自ら半分受けた。


そうして、椿も溺れてしまった。



花を咲かせる力すら無くなる程に。
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