月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
それに気付かぬ両親は、ただ泣く事しか出来なかった。


貴志君との愛しい思い出すら、悲しみの沼に沈めてしまった。





貴志君は、笑って欲しかったのだ。


自分との思い出を、笑って話して欲しかったのだ。








―お父さんとお母さんが泣く度に、僕の身体が重くなるんだ…濡れてしまうんだ…僕のお願いだよ、もう泣かないで―


「貴志…でもな、お前がいなくなって悲しいんだよ。帰って来てほしくて……あの時、俺がお前を掴んでさえいれば!」


―お父さん…お父さんは、あまり自分を責めないで。僕が死んだのは、お父さんのせいじゃないんだよ―


「貴…志…!」


―僕が死んだのは運命で、お父さんのせいじゃない。僕はね、お父さんの近くで死ねて良かったと思うんだ。一人じゃなかったから安心できたんだよ。お父さんにはショックだったろうけれど、僕には安心だったんだ。今、僕がこうしていられるのも、その安心があったからなんだよ。でなけりゃ僕は、悪いユーレイになっていたと思うんだ―






綴られる息子の声、先輩の背中が、嗚咽に合わせて震えている。



貴志君の言葉は全て真実だ。

僕にはわかる。
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