月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
身体は無くとも、思い出と共に家族と未来を願う。


どうか幸せにと…。


愛しているからこそ、どうか笑っていて欲しいと。




―僕は、ずっと好きだよ。お父さんもお母さんも舞も…みんなが大好きだよ―




それが、貴志君の思い。


祈る心。

遺す者の心…。








笑う貴志君。

その身体から、光の粒が舞い上がり、ゆっくりと空へと昇っていく。


まるで、降り落ちた雨の雫が、天へと帰って行く様に。





つられ、僕は空を見上げる。



静かに藍色の空間を泳ぐ薄雲は、月を隠す自らの身体を、再び風の流れに漂わせる所。


少しずつ、少しずつ、庭に光が注ぎ始める。







時間だ。

もう、送る時間。








貴志君も、気付いていたのだろう。


視線を向けた僕へ、儚げな笑みを見せる。




その笑みは、別れの悲しさからでは無い。

覚悟も何もかも受け入れた上での、満たされた笑み。







貴志君。

君は亡くなってからも、成長していたんだね。




僕も、祈ろう。



天に昇るであろう、君の温かい日々を。
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