月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
僕にも、息子がいる。

それでも、全ては理解してやれないのだ。

気持ちは理解できるが、現実の痛みとして分かち合う事はできないのだ。



僕の息子は傍にいる。

毎日顔を見れるし、触れる事もでき、抱きしめてやる事も出来る。

いつでもその愛しさを、柔らかい感触を、温かい匂いを感じていられる。



だが、先輩は違うのだから。

触れる事が出来ないのだから。





あの時の先輩の記憶と悲しみは、今でも僕の胸をちくりと刺す。








「赤島さんは、お子さんを亡くされたのでしたわね」



手紙の封印を開け、便箋を取り出す僕の向かいで、瑞江さんが小さな溜息をつく。


「ええ、もう一年になりますね」

「お手紙を下さるくらいには、お元気になられたのでしょうか」


葬儀には、妻も共に顔を出した。

憔悴した先輩を目の当たりにした瑞江さんにとっても心配はあるのだろう。



箸を置き、手紙に視線を這わせた。




………僕に、頼み?


貴志君の事…。





先輩は、僕の持つ力についても知っている。

以前、先輩の家族絡みで解決した事があるからだ。



……この手紙…やはり…。
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