月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
帰る場所
僕が地元に着いたのは、夕方。


年末が近い為か、駅が混んでいたのだ。





いや……混み具合のせいにするのは止めよう。



乗り継ぐ駅を降り間違えたのは僕だ。








「お父さん!お帰りなさい!」



駅には、息子と妻が迎えに来てくれていた。


転がる様に走り寄る息子の身体を抱き上げると、思わず頬が緩む。




「ただいま、良い子にしていたか?」

「うん、お母さんとおばあちゃんのお手伝い、いっぱいしたよ」

「そうか」

「ねぇ、お父さん。お土産は?」





…………お土産ね。






荷物から土産の玩具を引き出し渡すと、息子はそれを抱きしめて喜んでいる。



僕を見つけた時よりもリアクションが大きいな。

少し淋しい……。







「あなた、お疲れ様でした」


喜び跳ねる息子の隣で出迎えてくれた妻は、ゆったりと頭を下げる。



藍色の地に白い睡蓮が咲いた着物に身を包んだ妻。


そのコントラストは、貴志君が天に昇った夜空の景色を連想させた。





「戻りました、瑞江さん」



笑う僕にまた、妻も安堵した様な笑みを美貌に漂わせた。


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