月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
「本当に、来てくれただけで嬉しいよ。薫も待っているんだ」



薫さんとは、先輩の妻だ。

多分、僕の一年上。

瑞江さんと同じ年齢だった気がする。





先輩の運転するステーションワゴンの助手席に乗り込み、自宅へと向かう。



先輩の家は、駅から少し離れた場所にある。

行くのは初めてだ。

葬儀は葬斎場だったから。


先輩は、妻の実家にて妻の両親と同居している。


妻の薫さんの実家は建設業を営んでおり、今は薫さんの兄が継いでいる。

先輩は、働きながら設計の学校に通い資格を取り、義兄の仕事を手伝っている。


大学で民俗学を専攻していた先輩にとって、畑違いの勉強をする事は大変であったろう。

僕には真似出来ない。


だが、地元の民俗学も趣味程度に調べているらしく、史料館の手伝い等もしていると聞いた。


確かに、のんびりと研究を進めるには良い土地かもしれない。

何より、先輩が大学で学んだ知識が生かされる機会があるのは良い事だ。




そんな事を考えながら、流れる窓の外の景色を眺めていた時だ。


「……宗久。今回お前に書いた手紙だが…」

「はい」


……貴志君の件だ。
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