恋に落ちた、この瞬間。
――― パタリ。
音を立てぬようにドアを閉め、そっと背中を預ける。


「ふぅー」


疲れた。 まおが咳をしていたからって心配しすぎたんだな。

あれくらいなら大丈夫なんだな……。


「お疲れ、樹」


「……… 母さん」


声のした方を向けば、キッチンでミネラルウォーターを飲む母さんがいた。

なんだか、イヤな予感がするが。 まさか…… とは思う。


「“仲良く”していたみたいね」


やっぱり、聞かれていたか。

どこから聞いていたか分からないけど…… 最悪だ。


「まおちゃんが“こんな”樹に甘えてくるなんてね」


“こんな”ってどんなだよ。
俺って回りからどれだけ“冷たい人間”だって思われているんだ。


まあ、まおだって最初は“警戒”してあんまり近付いて来なかったからな。


「んで、まおちゃんと何していたの?」


母さんのこの“意地の悪い顔”が、昔っから嫌いだ。


< 37 / 42 >

この作品をシェア

pagetop