恋に落ちた、この瞬間。
何をしていたかだろ?


――― まおに手を握られた。

こんな事は口が裂けても言わない。


「ちょっと話していただけ」


「話しねー」


今、母さんの頭の中では俺とまおの会話が作り出されているんだろうな。

実際。 そんな変な話じゃなかったし、母さんに言ってもいいが、な……。


『――― いっくん、指長ーい』

『――― 憧れだもん』


まおの声が耳に残っていて、母さんに聞かせるには、どこか…… もったいない気がするんだ。



「樹ってさ、まおちゃんが嫌い?」


女は話を突然変えるのが好きだな。

母さんはまおそっくりだ。


「はっ、嫌いじゃねーよ」


どちらかと言ったら“好き”になる。 特に、ピーマンが嫌いで食べる姿は好きだな。
……… おもしろいし。


「じゃあさ、まおちゃんに“彼氏”が出来たらどうする?」


彼氏…… まおにか?

高校生な訳だし…… 彼氏が出来たっておかしくない。


でも、あの“まお”だぞ?


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