-短編集-『泡雪』
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泰輔と別れたのは、もう二年も前の9月のこと。
夏の生暖かい夜風や、
夜の歓楽街の酒や焼鳥の入り混じった匂い、
星が一つも見えないくらい明るい夜空
そういう、華やかで賑わったものに彼が惹かれていくことは仕方がないと思っていた。
私はその頃、
暗く静かで、優しい穏やかなものが好きで。
孤独は、静寂と受け止めていた。
人付合いも狭くなり、心の開ける友人数人しか、
ケータイのアドレス帳に名前はなかった。