-短編集-『泡雪』
−−リング。
それは私が夢にまで見た、心を繋ぎとめる、光る輪。
私は、自分の薬指を見つめ、それがしっかり収まる様を思い描いた。
『……なんだけど、おまえ、よく別れるって伝言、入れてきただろ?あれ…ホントにもう他に男ができたとかさ…』
−−違う!ないよ、そんなこと、ない!
私は、声に出すことができなかった。
黙り込む私のかわりに、
頬を伝った私の後悔が、珈琲の表面に張った油分の膜に、さざ波を立てて落ちた。