-短編集-『泡雪』
彼女が真っ白な雪の上に倒れ込んだのは、突然だった。
暗くて足がもつれたわけではなく、背中からゆっくりと倒れ込んだ。
驚きながらも、僕はどこかで“とうとう”とも感じていた。
彼女の言う、最期が手に入る瞬間なんだろうと予感した。
もう、戻る道さえない。
あったとして、僕達の足跡だけ。
それも、
引き返せば次は本当に深みにはまるかもしれないような、
頼りない、それ。
僕は、彼女に馬乗りになって、
自分の腕に体重をかける。
もう、迷わなかった。
――彼女が、微笑んでいたから。