-短編集-『泡雪』
3
・・・そして私は、今。
帯広駅のホームにいた。
手には、『札幌行き』の片道切符。
改札に通すと、あっという間に吸い込まれて、
私は両手の荷物が狭い改札口につっかえながら、慌てて扉の向こう側に取りにでた。
そうしたら、もう。
後戻りできなくなったうえ、振り返っても、
引き止めてくれるはずの彼の姿もなかった。
ホームには、雪。
先ほどの吹雪はさらに勢いを増して、電車を待つ人々を冷たく吹き付ける。
私・・・だけじゃ、ない。
こんな日に、住み慣れた土地を離れるのは私だけじゃない。
そう、思いたかった。
札幌に「帰る」人たちではなくて、
この人達も、ひと時この帯広という土地を離れて、また戻ってくる人たち。
私も、実家に「帰る」のではなくて。
ただ、少しだけ頭を冷やしに行く、それだけのこと。