-短編集-『泡雪』

「・・・困ります」

「はい?」

「困ります私!!」

振り返って大きな声で叫んだ。

駅員は、さっきまでおとなしかった私が叫ぶと、そりゃあもう驚いて、
「ですので、お客様、一度払い戻しもしておりますし・・・」
と、慌ててこの手元にある乗車券をお金に戻す方法から説明し始めた。

困っていない、どうでもいいと呟いていた私は、ただ駅員を困らせるためだけにごねている。それを分かっていながら、とめられない。

誰かきいて。
誰か分かって。

だれか、私の行き場、用意して。

まだ若い、制服に「着られた」ような感じに見える、この駅員。

鼻も、耳も真っ赤にして、この吹雪の対応に追われてい・・・

いや、先輩や上司に言われた仕事をやっているだけだろう。


私は、今日一日を一生懸命生きる彼をみて、
急にうらやましくなった。
私みたいな客に文句言われているのに、うらやましい。


おかしいけど。




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