-短編集-『泡雪』
「い く と こ ろ」

今度は、ゆっくりと一文字ずつ言葉を区切って私に話しかけたワタシ。

驚きすぎて、言葉もでない。
返事なんてしたら、まわりから見ておかしな人だと思われる。
だって、私と同じ格好をした人が、ワタシに話しかけていて、それに答えているなんて。

と、その前に、私の前にワタシがいるのはみんなに見えているの?


自分に見つめられて、私は助けを求めるようにさっきの男性店員のほうを見た。

・・・いない。あの店員。あんなに私をじろじろみていたのに。
こういうときに限って、いない。

客も、いない。

「みんな」と呼べるような人間が、いない。
私は、一人だった。
店内で私は一人。

私はこんなところに袋に入ったイモとコーヒーだけで何時間もいたのか?
ここにいれば一人きりじゃないと思いながら、一人になりたくて。



「ねえ、何してんの?聞いてんの?」






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