天然色写真
まただ、と亜希は思った。
大学のサークル棟、部室という名の部員たちのたまり場。
そのドアに手をかけた状態で、亜希は立ち止まった。
内容までは聞き取れないものの、部屋の中からは男女の騒ぎ声が漏れ聞こえて来る。
亜希は大きく息を吸い込んでから、勢いよくドアを押し開けた。
「お前ら、またやってんのか!!」
口が悪いのは小さい頃からケンカばかりしかけてくる兄のせい、ということにして、口喧嘩に負けないための特訓は日々怠らない。
それは、口喧嘩が趣味ですか、と問いたくなるほど繰り返される、部員同士のいさかいに割って入るためでもある。
亜希を見るなり、ヤバいところ見つかった、という顔の1回生・山川奈央。
あからさまに、邪魔が入ったという目つきの2回生・近藤周平。
今回の主犯はこの2人らしく、おそらく傍観していたのであろう遥は亜希に向かって曖昧に笑った。
「アキ、もうすぐ来るって言ってたでしょ?だから」
言い終わるころには開き直って、言い合いを止めに入らなかったのを遠回しに亜希のせいにしている辺り、器用でちゃっかり者の遥らしい。