チョコレート・キス
昨日、氷沙は妙な霊の気配を漂わせていたのも気になるけれど、何の悪意も感じられなかったから、たぶんまた氷沙が未練を残した霊と会話でもしたのだろうと思っていた。
あの子は人間にもそうでないものにも、自分に害を及ぼさないと思い込んだなら訳へだてなく接そうとするところがある。
良い性質だとは思うが、守る立場としては不安を持つ。
一応、今日家に帰ったらそれも釘は刺しておかないとではあるけれど。
「とにかく、あんまり氷沙に心配かけるんやないよ?」
「……うっせー、わかってるっつーの」
こちらを見ようともしない波樹をしょうがないなと思いつつ、立ち上がった瞬間、路地に入り込んできた人影が目に飛び込んできた。