チョコレート・キス
波樹の頭を押さえ込んだまま耳元でぼそっと呟いてやれば、波樹は面白いぐらい赤くなって、口をパクパクさせていたが結局何も言えず黙り込んで、気まずそうに正面の寺田からも視線をそらしている。
「……寺田が教えたった方が安全やろ、他の誰かに教えられて変なとこいってまう可能性もあった訳やし、現に寺田はこうやって自分に教えに来てくれてるやん」
なぁと寺田に笑いかければ、そうっすよと嬉しそうに寺田が頷く。
「だから俺ちゃんと教えましたよー、今頃佐倉のマンションまで行ってるんじゃないっすかね」
「お、本気で教えたのかよお前! 適当にごまかすなりなんなりしろよな!」
ぎょっとして喚いたらしい波樹の大声を聞きながら、俺は寺田に続けるはずだった言葉を呑み込んだ。「なぁ、寺田? 寺田のことやし、適当に諦めさせといてくれたんちゃうの?」