チョコレート・キス

波樹は大きな瞳で思いっきり睨みつけてから表通りに向かっていった。
ほんとにしょうがないなと思いながらその背中を見送っていると、寺田が声をかけてきた。

「……あの、楓さん」

「何、寺田」

「ほんとに追いかけないんですか」

あれだけ氷沙のこと、可愛がってたくせに。そんな声が聞こえてくるようでふっと笑いが込み上げてきた。

「いや、いくで」

「え、じゃあなんで」

「せやって、おもろないやろ? 俺が行ってすぐ解決してもうても。あの兄弟にはええ機会やねんて。ええ年してシスコンにブラコンの癖に意地はりよってんねんから」

まぁ、これで雪解けやろ。
そう告げて、ゆっくりその場を俺も立ち去ることにする。最後に見た寺田のぽかんとした顔を思い出して、口角が勝手に上がった。

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