チョコレート・キス
第四章 ある人の想い
「ねぇ、ここ?」
「知らないよぉ、だって辰馬、引っ越しちゃってるんだもん。やっぱりあたしが死んじゃったからあの家居づらくなっちゃったのかなぁ」
目の前のアパートを見上げて、隣を相変わらずふよふよ浮いていた利真に問いかける。自分の知らない場所なのが気に食わないのか彼女はぷぅっと頬を膨らませていた。
って言うか、これ誰かに見られたら完璧に独り言呟いてる怪しい女だよね、あたし。
心の中だけで小さくため息を漏らして、あたしは利真を宥めるための言葉を探した。
「……きっと、思い出が詰まりすぎてるからしんどかったのかもしれないね」
「――――そう、かな」
「うん。だって大切な人が居なくなっちゃうのって、すごく悲しいよ」