チョコレート・キス
知らない人、おまけにあまり評判のよくない男の人をいきなり訪ねるのは、緊張する。
ここにくるまでに怪しまれないように設定は考えてみたんだけど!
どうだろ、やっぱり怪しいかな。
亡くなった彼女の友達がいきなり訪ねてくるなんて。
でも、今日はヴァレンタインで、つまり利真の1周忌だ。タイミング的にはおかしくはないのかも。
「ねぇ、氷沙?」
「だ、大丈夫! 今押すね!」
306の前で固まっていたあたしの周りを、もどかしそうに飛び回る利真に急かされて、あたしは半ば勢いでインターホンを押した。
押してからもうちょっと考えて置けばよかったって後悔したけど、押しちゃったもんはしょうがない。
あとは、本人がいることを祈るだけだ。