チョコレート・キス
そうだ、霊体に扉の存在なんて、なんの障害にもならないんだ。
激怒する利真の半透明の身体は、炎のような熱気を纏ったまま、辰馬の部屋へと腕を伸ばした。
伸ばした掌は、もう扉を通過して見えなくなってしまっていて。
「やめとけよ、氷沙、もうあいつの自業自得だ。俺達にどうのこうのできる範囲じゃない。とりあえず逃げるぞ」
「やだ! だって、利真が―――! 利真が利真じゃなくなっちゃう!」
「わがまま言うんじゃねぇよ!」
振り切ろうとした波樹の腕はちっとも振りほどけなくて、あたしはただ叫んだ。
もしかしたら本当は自分でもどうすることも出来ないこともわかっていて、最後の欺瞞であたしの正当性を主張したいがためのそれだったのかもしれなくて。
波樹は正しい。分かってる。
今も、そしてすぐに感情に走るあたしとは違って、たいていの場合。
いつまでも双子だからって同じものであるはずがない。
分かってた。
依存してばかりで自分の道を歩めないあたしを案じてるんだろうなと言うことも、分かってた。