チョコレート・キス

彼女に自我が戻ってきている。天野の剣の波動を受けているからだろう。
けれどそれも今にも強烈な彼女自身の思念に食われてしまいそうだ。


「その男が、自分の好きやった人?」

「うん、そうだよ。でもあたしだけだったみたいだけど。ひどいよね、ちゃんと付き合ってたつもりなのになぁ」

「そやなぁ、こいつ評判悪いもん。見る眼なかったんちゃう?」

「あ、ひどい。そんなこと言うんだ」


叩いた軽口に、彼女は小さく笑う。

そしてそうだねと呟いた。見る眼なかったと思う。でも好きだった。

その一途さは、氷沙とも似ていて、だから氷沙は彼女に入れ込んだんだなと思う。

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