チョコレート・キス
「でも、好きだった」
「……せやね」
「だから殺せなかったよ。なんか倒れこんだのみてね、すごく苦しくて。今もすごくむかつくんだけど、でも好きな気持ちもあってね、殺せないの。生きてて少し、ほっと、してる」
「それでよかったと思うよ。もし殺しとったら、あんたこんなあほな男の所為で死んでからも苦しんでた思うわ」
「ほんとだ、すっごい馬鹿だよね。……うん、良かったのかな。殺したい、けど。でも」
元々が優しくて穏やかな少女だったのだろう。
彼女は憎んで悲しんで、それでも最後は男をその一手で持って殺せなかった。
また迷いかけ、負を募らせかけた彼女に笑んで俺は剣先を向けた。
今なら、まだ大丈夫やで。楽に昇れる。