チョコレート・キス
「おい、楓!」
終ったんならとっとと出て来いよてめぇ!
全く可愛くない波樹の怒声が聞こえてきて、俺は転がっている男の傍へと近づいてみた。
――大丈夫、やな。ただのショック状態や。
いちいち救急車を呼ぶのも面倒くさくて、もういいかとそのままに部屋を出る。
外ではなんともいえない複雑そうな表情の波樹と、落ち込んでますという顔をした氷沙が待ち構えていた。
――あぁ、もうしゃあないな。
なんだか、本当になんだかどうでもいいような気がしてきてしまって笑う。
先ほどまでの事態も氷沙の泣き顔も、波樹のしょうもない意地の張りようも。
生きて、今ここに、みんな居るんだから。