チョコレート・キス
「今日ヴァレンタインじゃん! すっかり忘れてたー!」
「……何叫んでんの、氷沙。廊下まで聞こえてきてんけど」
思わず座っていた椅子から立ち上がって叫んだあたしに、降ってきたのはお風呂上りらしい楓の姿で。
へにょんと眉を下げてあたしは楓を見上げる。
ああ、忘れてた。
「……今日、ヴァレンタインなのすっかり忘れてたの」
「えー、ひど! 俺楽しみにしとったのにー」
「ごめんね、楓!」
罪悪感はもちろんなんだけど、楽しみにしてくれてたんだと言ってくれたことのほうが嬉しくて、あたしはちょっと浮上した。
なのに次に落ちてきたのは「冗談やって」なんていう軽すぎる楓のせりふで。