にじいろ奇跡
「おはよう。郁人」

「おはよう。サヤ。体調は大丈夫か?」

「へーき」

「そか」


郁人は安心した顔を見せると、私の額に口付けをした。真っ赤になって顔を伏せる。


これも、また何時もの事。



そう。もう一つ変わった事は私と郁人が付き合う事になった事だ。


郁人からの告白で、私はお願いします。と頭を下げた。


勿論親もクラスメートも公認の仲である。郁人と私が恋仲になっても、ルリ狙いだった男子がしつこかった。


それに怒った郁人がバラしたのだ。優は私から言ったから知っていたのに、感情を剥き出しにして


郁人の胸ぐらをつかんで言っていた事は今でも鮮明に思い出される。


『沙夜を泣かしたら承知しねぇから』

『・・・あぁ』


あの後2人にはなんの変化も無く、私達はまた3人で至って普通の日常を送っている。


「しっかし暑いな・・・」

「うん。・・・あれから1年になるんだよね」

「あぁ・・・。この1年大変だったよな」

「うん・・・」

「サヤ?だるい?」

「少しだけ・・・」

「鞄持つから。ほら」


郁人は私の鞄を片手で持つと肩に担いでもう片方を私に差し出す。


私はその手をとって握り締めた。


郁人は握り返してくれる。そのままゆっくり学校まで歩く。


「本当、夏苦手なのな」

「暑いもん・・・」


それっきり私達は黙って歩く。その沈黙は凄く穏やかで、心地が良かった。


「はよ。美男美女カップル」

「優かよ」

「私・・・美女では無いって」

「沙夜、お前の天然さは可愛げが有るけど少々毒だ」

「・・・天然?」

「そこがまた可愛いんだろ?」

「否定はしない」


2人はよく、私が付いていけない話をする。そんな事もよく有るから気にしない。


「優も一緒に行こうよ」

「そうさせて貰うよ」

「お前には遠慮ってモンが無いのか!?」

「気にするな」


郁人と優は私を飽きさせない。今日もまた笑ってしまう。私が笑うと、郁人と優も笑顔になる。


だから不思議だ。優は私達と居るときは笑顔が増えた。これも大きな変化だと思う。
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