にじいろ奇跡
「沙夜、着いたぞ?」

「あ、うん!」


考え事をしていたら、もう学校に着いてしまったようだ。


残念な気もするけど、これで少しは暑さという地獄から抜け出せると思うと、物凄く嬉しい。


「カバン・・・ありがとう」

「ん。気にすんな」


昇降口で郁人は笑って、持っていたカバンを私に返してくれた。


郁人の手に触れたとき、物凄く緊張がはしった。


「っ!」

「っ!わ、悪い!!」

「う、ううん!」


慌てたような郁人の声。私はおそらく真っ赤な顔をあげる事も出来ない。声も裏返った。


少し気まずい沈黙の中、私達はきっと、通行の邪魔だったろう。


通り過ぎていく生徒達が私達を怪訝そうに見て過ぎて行く。


「おまえら、邪魔」

「のわぁぁ!!」

「なかッ、優」


第三者の声に、郁人が驚きの声を上げた。


私も内心驚いたけど、聞き覚えのある声に、顔をあげると鬱陶しそうに郁人にどついてる優が居た。

私が何時もの様に様に「中條」と呼ぼうとしたら、優は私に顔を向け、一瞬悲しそうな顔をした。


(あ、中條じゃなかった。優って呼ぶんだった)


慌てて言い直すと、優は笑顔を浮かべ挨拶をしてきた。


(朝から爽やかな笑顔だ)

「はよ。沙夜」

「優、痛えなコノヤロウ!!」

「沙夜、教室まで行こうぜ」


そう言って優は私の手をぐいぐい引っ張る。優に吊られて郁人を置いて中へと入って行ってしまった。
< 49 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop