にじいろ奇跡
「さ、早く行こうぜ」

「・・・うん」


郁人が手を出してきた。一瞬掴もうか悩んだが、郁人の手は掴まず自力で立った。


「沙夜?」

「行くよ。郁人」


私は郁人の顔を見ないで、出入口の方へと歩く。郁人は黙って付いてきた。




郁人に甘えちゃダメだ。




私は私の意見を持ってる。




辛い道のりを歩む事になるだろうけど、私は私の意見を伝えよう。


怖いけれど、私は押し潰されるのは御免だ。


「郁人!!」


校舎に入る前に後ろを振り返る。郁人を見つめた。私はちゃんと笑えているかな?


郁人の手を掴んで、私は走りだした。


「沙夜!?」

「早くしないと、始業チャイム鳴っちゃうよ。ナルちゃん先生の授業遅れたら、郁人ヤバくない?」


始業チャイムはあと5分で鳴る。


『ナルちゃん先生』とは、陸上部顧問を担当する大井鳴海先生の事だ。


この学校の中で、先生方からも生徒からも厚い信頼があるイケメン先生。郁人の才能を見出だした先生だ。


「ゲッ!!ナル先生の授業かよ!?走るぞ!!」


郁人はスピードをあげて走る。私が郁人を引いていたのに、郁人が私を引いて走る形に変わった。


「郁人ッ!!は、早い!!」

「沙夜後少しだから頑張れ!!」


私はもう息切れをしているというのに、郁人はまだ息切れもしていないし、呼吸も乱れていない。


本気を出して走っていないようだ。流石陸上部エース。わずか3分で教室に着く事が出来た。
< 53 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop