にじいろ奇跡
「沙夜!?」


バフッ!!


急に目の前に現れた郁人に驚き、急停止が間に合わなかった私は、郁人の胸にダイブした。


かなり衝撃があっただろうが、郁人は数歩下がっただけでしっかりと私を抱きしめてくれた。


「いくッとッ・・ハァハァ・・・」

「沙夜ちょっと落ち着け。深呼吸しろ」


少し離れて背中を擦ってくれる郁人。嬉しいのだけど今はそんな場合では無い。


「ッルリの容態が悪化してるの!!浜田先生が病院連れてってくれるから、鞄持って行くよ!!」

「なッ!?」


私と違い、一瞬驚いていたが冷静になって、自分の鞄を乱暴に掴む。


「行くぞ!!」


私の鞄も掴み反対の手は私の手首を掴む。郁人は走った。私は郁人に引かれるまま走る。


SHRが始まる前。矢嶋先生が前の前を疾走したけど、矢嶋先生は何も言わず「早く行きなさい」と言ってくれた。


本当は全力疾走したいだろうけど、私の所為で全力疾走が出来ない郁人に罪悪感が過る。


「郁人・・・先に行って」

「行ける訳無いだろ!!大丈夫だ!!」

「・・・ありがとう」


郁人は怒った風に私の話を遮って前を向いて走りながら言った。私の右手を掴む手が強くなった。


私達はそれ以上何も言わず、下駄箱で靴を履き変える。


「履けた?」

「うん。・・・鞄」

「良いよ。車まで持ってる。沙夜は走る事だけ考えて」


再び右手を掴むと郁人は疾走する。私はギリギリ着いていける位。下手したら足がもつれる。


校門近くに黒い車が止まっていた。後部座席の扉が開いていて、運転席の窓から浜田先生が叫んでいる。


「沙夜後少しだぞ!!」
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