僕の初恋(仮)
家に帰ると、夕飯の準備をする母さんの姿があった。


「すぐ塾行くから」


ただいまを言わず、そのまま荷物を持って出ようとすると


「あ、おかえり。おにぎり握ったから食べていきなさい」


と、握りたてのアツアツおにぎりがテーブルに置かれた。


「うまそっ、荷物先に取ってくる!」


俺は部屋に戻って塾のカバンを持ち、服を着替えようか悩んで


結局面倒なので、ジャージのまま行く事にした。



「あ、やべ、筆箱・・・」



とっさに思い出して学校カバンの中から筆箱を取り出した。



部屋を出ようとして、ふと、何故か振り向いた。


忘れ物の確認の為でも、何か声を掛けられたわけでもない。


だが俺は、引きつけられるように後ろを振り向き、部屋を見渡した。


俺の視線は机の上に向く。


青や灰色が基調の部屋の中に、ぽつりと置かれた赤い本。


こいつも読んでやらなきゃなあ。




俺は部屋を後にした。
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