僕の初恋(仮)
ドアがカラカラと音を立てて開いた。
冷たい外の空気が部屋に流れる。
「こんにちは」
入ってきたのは生徒ではなく、黒いスーツを着た女の人だった。
その人は佐藤先生を見ると、えーっと、と少し戸惑いながら、
「お疲れ様でございます。今回も冬期講習でお世話になります、宜しくお願いします」
と丁寧に挨拶をした。
「あ、もしかして水野先生?」
「あ、はい、そうです」
・・・・・。
衝撃だった。
てっきり「水野先生」は、怖い男の敏腕講師と想像していたから。
「夏期講習もして貰ってるから、手順は分かります?」
「はい、大丈夫です」
「うん、じゃぁ、この子を宜しく」
佐藤先生にポンッと肩を叩かれると、水野先生は俺に視線を向けてきた。
「あ、水野です。宜しくお願いします」
落ち着いた、撫でるように滑らかな声だった。
普段話した事のない若い女の人に、俺はかなり緊張をした。
目を見れず、軽く頭を下げて、小さく短く呟いた。
「お願いします・・・」
隣で佐藤先生がにやついていた。
「じゃぁ、2番ブースにいますね」
表を確認した水野先生は、俺にそう声を掛けて席に向かった。
「良かったな~、若い美人の先生で。緊張したか?」
「うるせーし!」
「まぁ、無理もない。お年頃だもんな~」
俺は返事の代わりに肩パンチを見舞ってやった。
「イタタ、水野先生を困らせんなよ~」
俺は自習室に荷物を取りに戻った。
先生を困らせるとしたら、俺じゃなくて結城だし。