僕の初恋(仮)
「お先に失礼します」


他の先生に挨拶をして、先生はタイムカードを押す。



「先生、名前なんて読むの?」


タイムカードには先生の下の名前も書かれていた。


しかし、あまり見かけない組み合わせで読み方が分からない。


「ふふ、なんて読むと思う?」


書かれていた文字は、
『水野 雪夜』。


「ゆきや?せつよ?・・・せつよって、なんか変だな」


隣で先生がふっ、と吹き出した。


「だって、簡単な漢字だけどあんま見ない名前だから」


俺は弁解するが、先生は可笑しそうに笑ったままだ。


雪・・・「せつ」か「ゆき」か、しか読み方ないし・・・

夜・・・「よる」か「や」か・・・あと何かあったっけ?


タンタン、と階段を下りながら振り向くと、口を抑えながら肩を震わす先生の姿があった。


「え?そんなに面白かった、俺の予想」

「すっ・・・ごいツボに嵌まった。『せつよ』って・・・誰、」


そう言って顔を赤くしながら笑っている。


「だって、読めねーんだもん」


俺も何だか恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。


『せつよ』。


確かに・・・変だし、笑える。
< 29 / 50 >

この作品をシェア

pagetop