僕の初恋(仮)
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大学三年生にもなると、いよいよ就職活動が始まる時期だが、志乃は全く就職への希望を見出せずに居た。
普通の文理学部の自分が就職するとなれば、大手企業やら中小企業やらのOLという言葉が思いつくが、今の志乃にとってそれはなんの魅力も感じなかった。
寧ろ、今自身が向き合っているアルバイトの方が数倍興味がそそられた。
今現在、既に携わっているせいか、店に訪れる客や、レジ打ち、コーヒーの入れ方やケーキやパンの陳列が何より楽しいと感じるのだ。
就職するならこのままこのカフェで、なんて事も考える。
しかしそれではいけない事を分かっていた。
それでは何の為に大学に入ったか分からない。
志乃は小さな葛藤の中にあった。
自分の楽しみや興味が、大学の勉強とは全く別の所にある事を。
大学で学ぶ事がそのまま自分の夢に繋がるのならどんなに嬉しく楽しいだろうか。
しかし残念な事に、今の志乃の中には文理学部の学問の及ぶ所に夢はなかった。
そもそも何となく入れそうな大学と学部に進学した自分だ。
何か学びたいものがあって来たわけではない。
まだ少し冷たい春風を受けながら、バイト先へと足は進む。
少し人通りの多い並木通りを一本中に入ればすぐに看板が目に入る。
一歩一歩近づく楽しみの時間に、志乃は今までのくしゃくしゃの考えをポイと捨てて、まだ時間はあると一人思うのだった。
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