僕の初恋(仮)

俺は毎年恒例のこの行事に慣れていて、すっかり要領は得ていた。


じいちゃんが生前使っていた農機具庫は夏に取り壊されたばかりで、その横に並んで立つお蔵は古いままそこに取り残されている。


主に書庫として使われており、昔の書物の他にはお宝とも思える掛け軸や陶器が綺麗に並べてある。


このお蔵掃除の担当が俺で、本もお宝も丁寧に並べたのは勿論昨年の俺だ。


熱湯を冷たい水で割り、少し熱めのお湯でバケツをいっぱいにしてお蔵に向かう。


頑丈で物々しい鉄の鍵が扉の真ん中にぶら下がっているが、錠は閉められていない。見せ掛けだ。


何のことはない、開いた鍵を外して重い扉を引き開いた。


こんな大雪の中に佇むお蔵なのに、その中は少しも湿った空気が無いのは何故なのか。


外と変わらぬ寒さだが少し乾燥しているのは、お蔵の構造が関係しているのかもしれない、とふと思った。


埃まみれの本を移したり、雑巾で拭いたりとしている中で、俺は蔵の中を大きく見回した。


しん、と静まり返った中に地味な色の背表紙が並んでいる。


大量だなぁ。


俺は再びいそいそと手を動かし始めた。


全てを終えたのは夕方前頃。


すっかり埃を払って綺麗に並べられた様を見て、改めて本が好きであると言う事を実感する。


図書館などもそうだが、とにかく沢山の本が綺麗に並べられている空間が好きなのだ。


ずらりと揃えられた本棚を見ているだけでドキドキ、ワクワクしてくる。


ああ、図書館司書なんていいなぁ。


ただ漠然と心で呟いた。



< 46 / 50 >

この作品をシェア

pagetop