僕の初恋(仮)
大晦日の夕餉は豪華だ。

新鮮な新潟の海の幸が並んでいる。どうやら手巻き寿司のようだ。


後もう、ご飯を食べて風呂に入って、母さんが好きな東西歌合戦を観れば、今年は終わる。


明日は弥彦神社に初詣だ。


あれもこれも、毎年変わらない事ー



本当は俺も兄貴もお笑い番組を観ていたいんだが、母さんとばあちゃんが歌合戦、歌合戦とうるさい。

知ってる歌手の時だけ盛り上がって、演歌などの時はわざとつまんなそうな顔をした。


ふと、ある演歌歌手の登場で俺は、ん?と目を見張る。

テレビ画面のテロップには曲名とその下に歌手名が「石川 雪貴子」と書かれている。


「ばあちゃん、この人の名前なんて読むの?」


俺は演歌が大好きなばあちゃんに尋ねた。


「んー?あー、この人歌上手いんだよホントに、いい曲歌うんだぁ」

どの曲もみんなおんなじに聞こえてしまう演歌のイントロが流れ出した。

「・・・うん、で名前なんて読むの?」

画面上のテロップは既に消えていた。

「ん?名前、あれ名前何だっけかや・・・」

「・・・」

「石川じゃなかったかや」

「下の名前が知りたいんだけど・・・」

ばあちゃんは、あーんと、と口を開け、悩みながら曲を聞いている。


テロップには確か「雪貴子」と書かれていた。

これってもしかして、「ゆきこ」と読むんじゃなかろうか。


「もしかして、『ゆきこ』って言う?」


「あ、そうそう!石川ゆきこだわ」


ばあちゃんは大きく何度も頷いた。


そうか、「雪」一文字で「ゆ」と読むのか。
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