僕の初恋(仮)
これだけの人だかりの中に紛れていると、幾分寒さが紛れるような気がして、ましてや通りに面して連なる出店の前を通れば尚更だ。

こういう時の屋台の味は、高級レストランにすっかり勝る。

俺も兄貴も何を食べようか、買おうかで目移りしていた。


「いらっしゃい!」

ねじり鉢巻のスキンヘッドおじさんと目が合って、それを機に買うことを決めた。

「一つでいいかのかい?」

「はい、一つで」

ホクホクと湯気を立てる黄色いじゃがいもは一つと言えどもかなりの大きさだ。

驚く事に拳二つ分くらいあるんじゃないだろうかと思っていると、おじさんはそれを四等分に切り込みを入れその上にバターをたっぷりと乗せてくれた。

「ありがとうございます」

プラスチックとビニール袋ごしに熱々の重みが伝わる。


俺は待ちきれず歩きながらも器用に箸で芋をつつく。


「俺にもくれよ」

たこ焼きと焼きそばを買った兄貴もバターたっぷりのじゃが芋に箸を伸ばした。


「ほれ、正輝、涼一、わたあめあるぞ」

ばあちゃんの指差す先を見れば、何とかレンジャーとかアニメのキャラクターが描かれた膨らんだ袋が並んでいた。


「俺、いらね、甘いんだもん」

「俺も、なんかあの絵が気にいんね」

「ほうか、男の子はやあっぱりご飯のがいんだな」


焼きそばやじゃがいもをがっつり貪る俺達を笑ってみていた。


ふと見れば、同じ年くらいの姉妹がそれぞれ好きなわたあめを買っていた。
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