僕の初恋(仮)
「じゃあなー」

2人と別れて家に向かうと、ふと花屋の前で立っている女の子に気付いた。


あれは、後ろでクスクス笑っていたあの子だ。


花を見ているようだが、時々こっちを見るのはどういう事なのか。


俺はちょっとドキドキしながら通り過ぎようとした。


通り過ぎる瞬間はこっちに背を向けて花を選んでいる。



制服ではなく私服だった。


中腰になっていると、ミニスカートの中が見えそうで・・・でも見えない!


通り過ぎて暫くすると、後ろから声がした。


「待って、」

俺じゃないかも、とぎこちなく振り向けば、その子と視線が合う。



「何?」


平静を装うが、脳内と心臓はフル稼働だ。


カズマは嘘でヒロの事が好きとか言ってたけど、実は俺の事が好きだとか・・・?

まさか・・・でもあり得る。

これから告白されるのか!?


てか、手になんか持ってるし・・・

クリスマスプレゼント?

いやまさか、


でも・・・


「この本、良かったら読んでみて」

「え?」


妄想を退けられた俺に差し出されたのは、赤い一冊の本だった。

「『花と恋』?」


いかにも女の子が読む恋愛小説と言った感じのタイトルだ。


正直、この手は興味がないんだけど・・・


「それ、『長川探偵H』を書いた人の本なの」

「え!嘘!?」


俺はそのタイトルを聞いて食いついた。


俺が大好きな作家の書くシリーズ文庫だ。


「涼一君がそのシリーズ読んでたから、好きなのかなぁと思って」


それから暫く、本の話に夢中になった。


周りに余り、このシリーズの話題を持ち掛ける人がいなかったからだ。


山越さん、というその女の子もこの本の話が出来る友達がいなかったらしい。



「また、そっちの赤い本の感想も教えてよ」


「うん、冬休み中に読み終えるよ」


「じゃあ、またね」


「ん、じゃあね」




別れてから、メアド聞いとけば良かったかも、と思った。



・・・向こうから聞いてくれれば良かったのに、なんて思ったり。
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