Dear...
孝司の世界は、深い。
暗闇がどこまでも続いていくような世界だ。

踏み込めるのは、多分俺だけ、であって欲しい。

どうしようもなく醜い感情に駆られ、思わず聞いてしまった。

「孝司」
「ん」
「同性愛ってどう思う」

孝司は、なんで、とも、キモい、とも言わずに答えた。

「俺は別に良いと思うよ、それが愛情の形だったんなら」
「差別とか、さ、社会的にも同性愛って卑下されるだろ。恋とか愛なんて、どうせ子孫を残す為だけの本能に過ぎないのに」
「その本能を、人間は昔から尊んできたんだよ。…死にたがる本能も、生きたいと願う本能も、誰かを愛する本能も、人間が帰化するのは最後は必ず本能だよ。その本能が向く方向だって人それぞれ。愛する対象を問われて『母親』と答える奴がいるのに対して『恋人』とか『友人』と答える奴が居るのと同じことだ。男女というカテゴリーが違うだけだろ」

孝司の小難しい話は、聞いていて苦痛にならない。不思議だ、と思う。
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