Dear...
そうなんだ、と落胆する吾妻を見ると罪悪感が沸く、明後日の方向を向いて物思いに耽る孝司を見ると罪悪感が沸く、教室で楽しそうに話している伊藤紗枝を見ると罪悪感が沸く。

俺は押し売りの自己満足で、孝司の為にと嘘をついた。吾妻と伊藤紗枝に嘘をついた。
根底にあった感情はきっと、


『孝司を、取られたくない』。


ふざけていると言いたければ言えば良い。酔狂だ、と言いたければ言えば良い。

孝司が離れていくのが怖い。
孝司は本当に、カナちゃんの事故以来誰かを愛することが出来ない。だからこそ、この間も『曽根崎心中』のような、愛にすべてを捧げるかのような話を好んでするのだ。

愛することが怖い。愛されることが怖い。孝司の悲痛な叫びを聞いてきたのは俺だけなのに。
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