Dear...
「悠希」


俺が唯一、好意的な目で見ることが出来る人間が、肩をトン、と叩いていた。

「眉間に皺ー」
「え、」

色が抜けた髪、穴だらけの耳、明らかに着崩した制服。ニマ、と笑う顔は、子供の頃から変わらない。

「サボんね?」
一方的にそう言うと、俺の右腕を掴んで歩き出す。教室を出る。理科室を通り過ぎる。不気味な人体模型や、生物部の連中に解剖される運命にある魚や蛙達の視線も通り過ぎる。その先にある、屋上に続く階段。

勿論、立入禁止だ。鍵もついている。しかし、やはり彼である。鍵をポケットから取り出す、ガチャ、と言う音を立てて鍵が回った。
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