Dear...
「じゃあ、俺、死のうか」

自分でも、何を言っているのか分からなかった。口が意志を持って勝手に動いているみたいだった。

孝司はぎょっとした表情でブレーキをかけた。久しぶりに見た表情だった。

「何言ってんの」
「言葉の通りだよ」
「何で死ぬとか言うわけ」



「曽根崎の森の下風音に聞え とり伝へ
成仏疑ひなき 恋の手本となりにけり。
来世は女に生まれられたら良いな、俺」


何度もそこばっかり言うもんだから、すっかり暗記してしまった曽根崎心中の一場面。情死した徳兵衛とお初の、その後。
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