崖っぷち
高橋慎也
高橋慎也、20歳。
大学で同じ学部学科、サークルも一緒。
第一印象はとにかく最悪で。
好きになるなんて思いもしなかったのに。
今では気付けば慎也のことばかり考えてる 。
「ねー慎也」
ドイツ語の講義中、隣にいる慎也に話し掛ける。
翼はフランス語専攻で、ドイツ語はいつも慎也と受ける。
入学して3ヶ月。
人見知りなあたしは未だに学科の人と打ち解け切れない。
人懐っこい慎也はもちろん学科でも中心人物で。
ただたまたま、ドイツ語専攻の他の男子がいないだけ。
うちの学科は女子が8、9割を占めてるから、もちろん慎也の競争率は高い。
ドイツ語の授業中の周りの視線は痛い。
「ん?」
眠そうな慎也は目を擦りながらあたしを見る。
『彼女』……いや、『元カノ』。
聞きたいのに聞けない。
「次当たるよ」
あたしはそれだけ伝えてノートを書く。
だめ。
目を合わして会話する。
そんな簡単なことも出来ない。