夢の住人
夢の住人 十
練習が終わり、片道13kmの通学路を帰る。
当たり前な事なのだが。行きは下り坂、帰りは登り坂。
帰りは、練習で奪われた体力を、この坂道に、また、奪われる。
毎回の事に嫌気がさす。
急な坂道とは違い、なだらかな坂道が続く、向かい風の日は尚更、辛い。
ジワジワとボクの太ももを虐める。
こんな事なら、短く急な坂道で一気に殺してくれた方が楽な気さえしてしまう。
カルマの法則を思い出す。
人は楽な選択ばかりしていると自ずと堕落していく。
自分でした事は責任を取らなけれならない。
楽したら、次は苦しまなければならない。
なだらかな坂道を何度となく、恨んだ事はあったが、そんな事に逆らえるはずもなく。
ペダルを漕いでいた。
ヘトヘトになりながら家にたどり着くと、
夕食が用意されている。
母は女であったが、家庭では母としての役割をきちんとこなしていた。低血圧な事もあり、朝だけは苦手だったが。
母の炒飯を半分だけ、食べて、すぐ自分の部屋に引きこもった。
そう、時刻は20時40分
5分前行動などと、小学生時代習ったが、実行などした記憶はない。
しかし、今日は別である。
決戦の日。
緊張が限界を越えて、口から心臓が飛び出しそうだ。
正座をし、身体を硬直させながら、彼女の電話番号をゆっくりと押す。
0・2・8・6・3・・
ダメだ!かけれない。
もう一度、眼を閉じて頭の中で会話をシュミレーションする。
ゆっくりかけていたら永久につながらないと思ったボクは覚悟を決めて一気にボタンを押した。
コール・・
コール・・
コール・・
お願いだから、本人が出てくれ!と必死に祈った。