心臓に悪い料理店
三話 とんでもない店員② その1
夕食時、外の喧騒とは正反対の静かな店内にドアのベルの音が聞こえた。
厨房から慌ててダニエルがやって来て、爽やかな笑顔で店内に入ってきた三十代の夫婦と二人の子供を席へ案内する。
椅子に腰掛け、子供達が両親に嬉しそうに今日の思い出を話している。
ここでの出来事が子供達にとって、忘れたくても忘れられない思い出になるということに気付く者は家族の中にはいない。
夫婦はダニエルにメニュー表を見ながら注文した。
それに明るい声で応対し、ダニエルは厨房へ向かった。
それからしばらくして、厨房から流れた肉の焼けたいい香りが店内に充満する。
「お待たせしました〜。ご注文の、『分厚い! 普通のナイフじゃ切れないよ〜っ!! ステーキ』です!」
にこにこと笑顔で、テーブルに普通のナイフでは本当に切れそうにないステーキの皿をダニエルは置いた。手には何故かぐるぐると包帯が巻かれている。
ちなみに、『分厚い! 普通のナイフじゃ切れないよ〜っ!! ステーキ』はメニュー名である。
嬉々としてステーキに見入る子供達に、母親がおしぼりで手を拭かせる。
その横で、人数分の皿を置いていたダニエルはナイフがないことに気付いた。