心臓に悪い料理店
四話 とんでもない店員② その2
すすっと天井を這って厨房へ消えていくアルフレッドをダニエルは見つめ続けた。
「いつも思うんですけど、アルフレッド先輩ってすごいなぁ〜」
「……何がすごいんだい……?」
ダニエルの耳元でアルフレッドの小さな声が聞こえた。
ぎょっとしてダニエルは勢い良く振り返る。
振り向くと、厨房へ戻ったはずのアルフレッドがそこにいた。
「え、アルフレッド先輩?! 厨房へ行ったんじゃあ……」
「……戻ったフリをして、天井をつたって戻って来たんだよ……」
頭から足までの長さの合羽(かっぱ)を脱ぎ、きれいに小さくたたみ終えたアルフレッドは天井に指を示す。
その合羽の模様は天井と同じ模様だった。
指された天井を見上げ、アルフレッドが小脇に抱えている合羽にダニエルは視線を移した。
「アルフレッド先輩、それってもしかして今、街で流行のステルス迷彩ってヤツですか?」
「……違うよ……。……これは『隠れ身の術』だよ……」
首を緩く振って、アルフレッドは小脇に抱えていた合羽をポケットに入れる。
入れた拍子にポケットから何か光る物が落ちた。
床に光る物が落ち、金属の高い音が店内に響いた。
「アルフレッド先輩、それはさっきのナイフじゃないですか」
「……さっきのお客様に渡す時に一本多く持って来たナイフだよ……」
ゆっくりとした動作で床に落ちたナイフを拾い、アルフレッドは近くのテーブルから布きんを取り、拭く。
ナイフを目より少し上に上げ、汚れがないか確認する。
「きれい好きですね、アルフレッド先輩」