Don't leave
いくらでも他に凝ったデザインのものはあったのに、どうしたってそのローズキャッツアイに目が行ってしまう。


他のものを見ていても、結局ローズキャッツアイのコーナーに戻って来てはそればかり眺めている。



「それ、気に入ったみたいね。」



つかささんが声をかけて来る。


「うん…他のも良いねって思うのに、このシンプルなやつに目がどうしても行ってしまう…」



「結子とその石の相性が良いんだよ。呼び合ったんだよ。よし、コレを買おう。」


そう言うと彼はそっと、そのローズキャッツアイを手に取る。


「や…いいし。いや悪いってば。いいから…」


私が首を振って要らないと言っても彼は譲らない。


「これは僕と結子がここで初めて長時間デートをした記念になるの!値段がどうとかの問題じゃないの。」



そう言うと彼はスタスタとレジに持って行く。


ダメだ、彼が買おうと決めたら私がどんなに要らないと言っても無駄。


そりゃあさ…


欲しいし、買ってくれるのは嬉しい。


でもそれ以上に悪いなって思っちゃう。


貧乏な中でずっと育ってきて、

いつもいつもお金の苦労ばかりしてきた環境の中にいた私には、


我慢するのは身に染み込んで離れないもの。



欲しいと思っても、我慢するのが当たり前だった。


いくらするか知らないけど、天然石である以上は500円や1000円そこらで買える筈なんてないんだから。


…やっぱり悪いなぁ…




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