FAKE LIFE

バタンッ

大きな音をたててドアが閉まった。
パタパタパタ…ッと廊下を走るキョウコの足音が廊下に響く。

ハルキは黙って誰もいなくなった向かいの席を見つめている。
ゆっくりと、長く深く息を吐き出す。

キョウコの言葉が、繰り返し頭に蘇る。

｢先生が結婚してるのは、もちろん知ってますっ。…奥さんって、ここの生徒だったんですよねっ!?だから…っ！｣

キョウコはそこまで一息に言うと、また急に黙りこんだ。
沈黙を二人が支配する。

ハルキが何かを言おうと口を開きかけた時、キョウコは自分の荷物を持って立ち上がった。

｢せんせぇっ、…あたし、本気ですから｣

長いまつげの縁取る、黒目がちな瞳を伏せてそうつぶやくと、キョウコはパタパタと足音を響かせて部屋を出て行った。

キョウコはなぜかひどく、哀しそうに見えた。
彼女の中に初めて見た暗い陰が、ハルキには気になった。

窓の外、紺色の空には、小さく白い星が一つ瞬いていた。