魚住の生き方
「このアパートはさ、立ち退きを迫られてるんだ。ここら一帯の再開発でさ。だから、大家と俺で、ここに住み込んで対抗していたんだけど、もう限界かな。ここら一帯の連中はみんな、再開発の同意のサインをしちまったからな。大家はここで生まれてここで育って、他に行く場所もなくて、可愛そうなんだ。金だってあんまり持ってないし、補償金だって微々たる物だしな。でも、もう限界なんだ」と、魚住は言ったんだけど、私は魚住の、お湯を沸かしてコーヒーを炒れるまでの一連の作業を、いつもは一人でやっているんだろうなと思いながら見ていた。そして、案外この男は優しいやつなのかもしれないと思った。