そのオトコ、要注意。


聞き間違いかとも思ったが、近づいてくる男の口角の上がった様子を見るとそうではないらしい。

「なに腑抜けた声上げてるの。まさかそこにずっと腰抜けたままでいるわけ?」

無機質な上履きの音が周りに響いた。

「まぁ、君に選択の余地はないけど」

そう言うといきなり身に覚えがありすぎる独特の浮遊感がしたと思ったら、あたしの鼻の先には顔。

背中と膝の後ろには腕を回されていて、自分が横抱きにされていることに気づいた。

人間とは不思議なもので、ここにきてようやく足に力が入るように…。

(なんでもう少し早くないのかな!?)


「ちょ、ちょっと!いい加減からかうの止めてくださいってば!下ろしてください!もう歩けますからッ」

足をばたつかせながら訴えるも涼しげな顔でスルーされる。

ついにはあたしを抱いたまま、階段を降りはじめる。

「だーかーらーッ!下ろせって頼んでるでしょうが!堂々と無視しないでください!」


大声でそう言いながら尚も腕から逃れようとしていると、急にピタリと歩みを止める。


あ、あり?



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